2012年4月24日火曜日

AM第14回 SESSION10B (C89) | ALS / LIVE TODAY FOR TOMORROW


ALS患者は、上位ニューロンの変性によって嚥下が困難となるため、体重減少や栄養失調といった障害をきたす。これまでに、PEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:内視鏡的胃ろう造設術)に代表される医学的介入手段が提唱されてきたが、その生存に対する効果や、臨床試験による効果はいまだ確定されていない。

Dr. Silaniは、ALS患者における栄養補給の現状とその問題点に関して概説を行った。

摂食障害・嚥下障害は、普通に食事を摂取できる状態から、固形物にむせたり、口からこぼれるといった初期症状に始まり、嚥下が困難になるに従って流動食へ移行し、経管栄養の導入といった過程を経る。嚥下障害を診断するためには、入念な既往歴の問診、食事に要する時間の変化、診察、食事の飲み込み方の観察等が挙げられるが、確実な方法といったものは存在しない。また、患者の嚥下能力そのものを評価することも非常に困難である。


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患者の栄養補給に関する評価は、食事内容を記載してもらう、BMI(体脂肪率)の測定、Bioelectrical Impedance Analysis (BIA)、Dual-energy X-Ray Absorbtion、静止時のエネルギー消費量の測定等が挙げられるが、Dr. Silaniは、ヨーロッパでは現在BIAが多くのセンターで用いられている指標である、と述べている。

ALS患者における栄養失調の実態についての研究によると、患者の2割が中程度から重度の栄養失調をきたしており、発症型による差はみられていない。また女性より男性患者の方がより栄養失調になりやすいことも明らかになっている。これは、実際にはより多くの患者が、嚥下障害を呈する以前に栄養補給に問題を抱えていることを示すものである。また、栄養失調をきたしている患者の生存期間は、発症型や病状の程度に関係なく短いという報告も紹介された。

一方、1999年に発表された米国神経科学会によるプラクティスパラメーターをはじめとする幾つかの科学的データは、ほとんど嚥下障害が見られた後での経管栄養の導入� ��推奨している。


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Dr. Silaniは、筋萎縮が進行するにつれて、残存する正常な筋肉の運動能力を維持するためにエネルギー代謝は増加しており、症状が呈する以前から適切な栄養を補給することは重要であると強調し、現在までにこの観点からの十分な検討がなされていなかった、と述べている。

経管栄養法には、NFT、PEG、PEJ、RIG等が知られているが、そのうちPEGは、最も一般的で成功率も高い。またRIGもその安全性と有用性が証明されつつある。PEGを導入することによって、患者の体重および体脂肪率は上昇するものの、筋肉のパーセンテージを示すlean body massは変化しない、という報告が紹介された。しかし、PEGの生存期間の延長やQOL(クオリティオブライフ)に対する効果についてのコンセンサスは得られていない。これは、通常の臨床試験ではPEGを導入している患者は除外されていることが多く、PEGが、試験によって評価されうる変数の一つとはみなされていないことによる。


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ヨーロッパの72のセンターで実施されたPEGの使用に関する大規模調査によると、PEGは95%のセンターで提供されていた。また、管理栄養士や嚥下治療士によるケアは、75%のセンターで提供されていた。医師の多くはPEGの効果は体重および体脂肪率の増加を観測することによって十分判定し得る、という見解であり、これはPEGも臨床試験における評価対象となり得ることを示唆するものである。このほか、ほとんどのセンターでは、PEGによる生存期間への効果を認めていることや、患者の体重減少が10%を超えることが摂食障害の危険性を示す指標である、といった意見も紹介された。


結論としてDr. Silaniは、PEGは嚥下障害に対する対症療法として定着しており、補助的、または経口にとって変わる栄養補給路となり得るのみでなく、薬剤投与をも助ける有用な手段である、と述べている。また、患者の代謝過剰に対応する十分な栄養を供給することによって体重維持が可能となり、介護家族もその導入に肯定的である、とも述べている。しかしながら、そのQOLや生存に対する効果や、導入のタイミングに対するコンセンサスはいまだ得られておらず、今後の課題は大きい、と結んでいる。



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